経口血糖降下薬による治療

インクレチン製剤を知る

インクレチン製剤を知る

従来の糖尿病治療薬とは大きく異なる機序から血糖降下作用をもたらすDPP-4阻害薬(経口血糖降下薬)、GLP-1受容体作動薬(経口血糖降下薬・注射薬)が広く使用されるようになっており、新たに持続性GIP/GLP-1受容体作動薬も登場しています。
ここでは、他の経口血糖降下薬、インスリン製剤とは別に取り上げて、これらの薬剤が、どのような働きをするのか、何に注意したらよいのかなどをご紹介します。インクレチン製剤についてまずは簡単に知ることからはじめましょう。

*DPP-4:dipeptidyl peptidase-4、GLP-1:glucagon-like peptide-1

インクレチンとは?

食事をすると小腸に存在している細胞の一部が刺激されて消化管ホルモンが分泌されます。消化管ホルモンの中には、すい臓のβ細胞を刺激してインスリンの分泌を増加させる働きをもつものがいくつか存在していています。これらのホルモンを総称して「インクレチン」と呼んでいます。インクレチンにはGLP-1とGIPというホルモンがあり、それぞれの働きでβ細胞に作用します。インクレチン製剤には、GLP-1の体内での機序に着目して作られたDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬、GLP-1受容体に加えてGIP受容体にも作用する持続性GIP/GLP-1受容体作動薬があります。

GLP-1は体内でどんな働きをしているか?

GLP-1は、食事による刺激によって小腸から分泌されるとβ細胞にあるGLP-1受容体に結合してcAMPを上昇させてインスリン分泌を増加させる働きをします。この働きは、血液中のブドウ糖量に依存しているので、血中ブドウ糖濃度が80mg/dL以下では起こりません。また、グルカゴンの分泌・胃酸の分泌・食欲中枢を抑えるなど、さまざまな生理作用をもっています。

GLP-1の作用と代謝について

※イメージ図

GLP-1は分泌された後に、血液中にあるDPP-4という酵素によって速やかに分解・不活性化されていきます。

インクレチン/GLP-1を活用した糖尿病薬

DPP-4阻害薬(経口血糖降下薬)

DPP-4阻害薬は、GLP-1を分解するDPP-4の働きを妨げることでGLP-1が分解されるのを防いでGLP-1の血中濃度を高めます。これによりインスリン分泌が増強され血糖値が下がります。
GLP-1は血液中の血糖の濃度に依存します。そのため血糖依存的に、すなわち血糖値の上昇に伴ってインスリン分泌が増加するため、単独投与では低血糖になりにくいとされています。また、1日1~2回の投与で、そして食事の影響がないので食前・食後のどちらの投与でもよいことや、血糖管理の改善に伴う体重の増加のリスクが低いことなどが利点として挙げられています。
一方で、DPP-4阻害薬は2型糖尿病のみ使用されています。また、腎機能障害、肝機能障害では、重症度により注意または投与が禁止されています。特に、DPP-4阻害薬とSU薬を併用した場合に重篤な低血糖を起こして意識障害に陥ることがありますので、高齢の方や腎機能が低下している場合には注意が必要になります。

GLP-1受容体作動薬(経口血糖降下薬・注射薬)

GLP-1受容体作動薬は、DPP-4による分解を受けにくくしたGLP-1のアナログ製剤です。 そのため、生体のGLP-1よりもDPP-4に分解されにくいので、長時間にわたってGLP-1の働きが維持されるようになっています。GLP-1受容体作動薬は、すい臓のβ細胞にあるGLP-1受容体に結合して血糖値が高いときだけインスリンの分泌を促すので、単独の使用では低血糖が起こりにくいとされています。経口薬は1日の最初の食事前1回、注射薬は1日1回~2回、または週1回投与します。空腹時血糖値と食後血糖値の両方を低下させます。肥満、非肥満にかかわらず体重増加の可能性が低いとされています。
一方で、GLP-1受容体作動薬は1型糖尿病には使用できません。
また、胃腸障害が認められ、急性すい炎が起こる可能性もあるので注意が必要です。特にSU薬と併用すると低血糖の起こる頻度が単独で使用したときよりも高くなるので定期的な血糖測定を行うなど、慎重な管理が必要です。

持続性GIP/GLP-1受容体作動薬(注射薬)

持続性GIP/GLP-1受容体作動薬は、週1回の注射薬であり、GIPとGLP-1の2つの受容体に単一分子として作用します。具体的な作用としては、GIP受容体およびGLP-1受容体に結合して活性化することで、血糖値に応じたインスリン分泌を促し、空腹時および食後の血糖値を低下させます。
低血糖を起こすリスクは低いとされていますが、他の糖尿病治療薬と併用する際は血糖降下作用が強くなり、低血糖が起こりやすくなるため注意が必要です。また、副作用として吐き気や下痢などの胃腸症状があらわれることがあります。初めて使用するときや、投与量を増やしたときに特に起こりやすくなるため注意が必要です。

<各薬剤共通の注意点>

血糖管理がよくなったからといって自己判断で服薬を中止してしまうことは決してしないでください。血糖管理が順調なのは、食事療法・運動療法と、服薬している薬が上手く機能しているからです。薬の量を減らす、増やす、止めるなどの判断は、医師が患者さんの状態にあわせてその都度適切な処方をしていますので、必ず医師の指示に従うようにしましょう。
もし、今、服薬している薬について少しでも不安や疑問があれば、遠慮せずに主治医または薬剤師に相談するようにしましょう。安心して、信頼して薬が飲めることも、治療の継続と成功への大切な要素であることを知っておきましょう。

監修:順天堂大学 名誉教授 河盛 隆造 先生