糖尿病を知ろう

糖尿病をそのままにしておくと

糖尿病になると、私たちの体はいったいどうなってしまうのでしょうか?

血糖値が高いままの生活を続けると、血管がもろく、ボロボロになってしまういわゆる血管病になります。
そして、全身にネットワークを結んでいる血管と神経が、血糖値の高い状態が続くことで侵され、適正な栄養の供給が途絶えて全身の臓器にさまざまな障害が起こってくるのです。これは、糖尿病の慢性合併症とよばれています。

糖尿病の慢性合併症には、大きく分けると細い血管にみられる合併症(細小血管症)と、太い血管にみられる合併症(大血管症)の2つがあります。

また、慢性合併症のほかに、極度のインスリン作用不足によって急激に起こる急性合併症もあります。

糖尿病性合併症

河盛隆造、綿田裕孝 編:インフォームドコンセントのための図説シリーズ 糖尿病 改訂版 医薬ジャーナル社 ,23, 2017

急性合併症と慢性合併症のどちらも、糖尿病患者さんの生活の質(QOL)と寿命はいちじるしく低下します。これらはいったん起きてしまうと、元に戻す(治る)ことは大変困難です。だからこそ、糖尿病は早期発見と早期治療が行えるか否かが運命のわかれ道ともいえます。

糖尿病は慢性疾患の1つであり、治療と自己管理が生涯必要な病気ですが、これらをきちんと行えば、通常の生活をおくることができます。

糖尿病の治療は、患者さんのQOLと寿命を低下させる合併症が起こらないように予防したり、たとえ合併症が起きてもそれ以上悪化しないようにするためにとても大切です。

慢性合併症:細小血管障害

高血糖の状態が長い期間にわたって続くと、体の細い血管が障害されて血流が悪くなり、とくに細い血管が集中している場所に合併症が起こります。

眼、腎臓、神経系で合併しやすく網膜症、腎症、神経障害があります。

慢性合併症:細小血管障害 イラスト

河盛隆造、綿田裕孝 編:インフォームドコンセントのための図説シリーズ 糖尿病 改訂版 医薬ジャーナル社 ,23-36, 2017

網膜症

私たちが目で物を見る仕組みは、カメラで撮影するときと似ています。つまり、カメラのフィルムと同じ役目をするのが目にある網膜です。この網膜に障害が起こると、目で物を見る機能に異常があらわれます。

目の仕組み 説明図

※イメージ図

網膜症は、網膜内の血管に障害が起こり、視力の低下や失明を招く病気です。

網膜症は、個人差はありますが、次のような段階を経て病気が進んでいきます。

糖尿病網膜症の症状

※イメージ図


腎症

腎臓は、血液をろ過して体に不要な老廃物を尿として排泄します。腎症になると、ろ過の役割をしている糸球体の毛細血管がそこなわれて、腎臓の機能が障害されてしまいます。

腎症が進行すると、薬で血圧を下げたり、タンパク質の摂取量が厳しく制限された食事療法が必要になり、さらに症状が進むと、機械で血液をろ過する人工透析が必要になってきます。

辻野元祥 著 編:ナースのためのやさしくわかる糖尿病ケア ナツメ社, 48-51,2011

血液透析と腹膜透析のイラスト

松久宗英、黒田暁生:糖尿病ケア メディカ出版, 98,160-163,2011


神経障害

細い血管が障害されて血流が悪くなると、神経細胞への血液の供給が途絶えてしまうため、自律神経にも障害が起こります。その場合、立ちくらみ、下痢、便秘、排尿障害、勃起障害などの症状があらわれます。

痛みを感じにくくなっているため、ちょっとした足の傷や、ヤケドに気づかず、壊疽(えそ)になって足を切断することもあります。

壊疽(えそ)の状態のイラスト

河盛隆造、綿田裕孝 編:インフォームドコンセントのための図説シリーズ 糖尿病 改訂版 医薬ジャーナル社 ,28-29, 2017

慢性合併症:大血管障害

高血糖の状態が続くと、太い血管では動脈硬化が加速します。

動脈硬化は動脈の内側にさまざまな物質が沈着して厚く、硬くなり、隆起(プラーク)ができる状態で、糖尿病をはじめとして脂質異常症(高脂血症)、高血圧、喫煙などによって起こるとされます。動脈硬化が進むと、血流が途絶えたり、血管にこびりついているプラークがはがれて血管に詰まり重要な臓器に障害を起こします。

脳梗塞、心筋梗塞や末梢動脈疾患(PAD)があります。

慢性合併症:大血管障害 イラスト

河盛隆造、綿田裕孝 編:インフォームドコンセントのための図説シリーズ 糖尿病 改訂版 医薬ジャーナル社 ,23-36, 2017


脳梗塞

脳の血管が詰まって起こります。突然、意識がなくなったり、手足がまひしたり、ろれつが回らないなどの症状が起こります。

河盛隆造、綿田裕孝 編:インフォームドコンセントのための図説シリーズ 糖尿病 改訂版 医薬ジャーナル社 ,31, 2017


心筋梗塞

心臓の血管が動脈硬化で狭くなると、体を動かしている時に胸が痛く、安静にすると収まる「狭心痛」が起こります。安静時にも胸が痛くなるようになると「不安定狭心症」になり、狭くなった心臓の血管に血栓が詰まってしまうと「心筋梗塞」になります。

河盛隆造、綿田裕孝 編:インフォームドコンセントのための図説シリーズ 糖尿病 改訂版 医薬ジャーナル社 ,29-30, 2017


末梢動脈疾患(PAD)・足えそ

神経障害があると、足に傷ができても痛みがなく発見が遅れてしまい、潰瘍になりやすくなります。さらに、太い血管にも動脈硬化が進む末梢動脈疾患になり脚から下に血流が悪くなると、潰瘍が直りにくくなり、えそを起こしてしまします。場合によっては足を切断することもあります。

河盛隆造、綿田裕孝 編:インフォームドコンセントのための図説シリーズ 糖尿病 改訂版 医薬ジャーナル社 ,32, 2017

慢性合併症:その他

血管の障害から起こる合併症以外にも、高血糖の状態が続くことでさまざまな合併症が起こります。

慢性合併症・その他の症状 イラスト

河盛隆造、綿田裕孝 編:インフォームドコンセントのための図説シリーズ 糖尿病 改訂版 医薬ジャーナル社 ,23-36, 2017


歯周病

血糖コントロールがうまくいかないと、歯周病が悪化するといわれています。高血糖があると細菌感染を起こしやすく、歯と歯ぐきの間に細菌感染を起こします。この炎症が続くと、歯ぐきを支える骨が溶けてしまい、歯が抜けてしまうこともあります。

河盛隆造、綿田裕孝 編:インフォームドコンセントのための図説シリーズ 糖尿病 改訂版 医薬ジャーナル社 ,33, 2017


感染症

糖尿病の患者さんは、肺結核、尿路感染症、皮膚感染症などの感染症にかかりやすくなります。足の皮膚感染症は壊疽(えそ)の原因にもなります。

急性合併症

糖尿病ケトアシドーシス

糖尿病ケトアシドーシスは、急に意識が無くなり、昏睡状態になることをいいます。

1型糖尿病患者さんに多く、インスリンが極端に減ってしまい、体内の糖分が使われず、脂肪が使われることによって起こります。脂肪がエネルギーとして使われる時にケトン体という酸性の物質がつくられ、血液が酸性(ケトアシドーシス)になることで、昏睡状態となってしまいます。

急性合併症の症状 イラスト

河盛隆造、綿田裕孝 編:インフォームドコンセントのための図説シリーズ 糖尿病 改訂版 医薬ジャーナル社 ,23-24, 2017


高血糖高浸透圧症候群

高齢者に多く、高血糖のために昏睡状態になることをいいます。

感染や脱水が原因でインスリンの働きが悪くなるために起こります。

河盛隆造、綿田裕孝 編:インフォームドコンセントのための図説シリーズ 糖尿病 改訂版 医薬ジャーナル社 ,24, 2017


インフルエンザと糖尿病

2009年春に確認された新型インフルエンザ(A/H1N1)。毎年冬に流行する季節性インフルエンザと違ってほとんどの人がまだ免疫をもっていません。糖尿病患者さんでは、感染しやすく、重症化しやすいのでとくに注意が必要です。

~ なぜ? ~

  • 血糖値が正常な人に比べて、高血糖の人は体内に細菌やウイルスが侵入したときに活躍する白血球の働きが低下しているため、抵抗力(免疫反応)が弱まっています
  • 一度かかってしまうと治りにくく、重症化しやすくなります
  • インフルエンザにかかると血糖値が上がり血糖コントロールが難しくなります。ただし、一時的なものなので、インフルエンザが治れば血糖値はもとに戻るため糖尿病合併症や病気の進行の心配はありません

~ とくに注意が必要なのは? ~

  • 血糖コントロールがよくない人(HbA1C[ヘモグロビン・エー・ワン・シー]が高い人)
  • 糖尿病の合併症が進んでいる人
  • 糖尿病の高齢者
  • 糖尿病の乳幼児・こども
  • 糖尿病の妊婦

平成21年度厚生労働科学研究費補助金(特別研究事業)
「2009年度第一四半期の新型インフルエンザ対策実施を踏まえた 情報提供のあり方に関する研究」
研究班:新型インフルエンザ対策(A/H1N1)感染してもひどくならないために 糖尿病または血糖値が高い人へを参考に作成

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監修:順天堂大学 名誉教授 河盛 隆造 先生