インスリン注射による治療

インスリン療法の適応について

インスリン療法の実際

どのインスリン製剤を選択して、どのように注射を行うのかは、患者さんの病態やライフスタイルなどさまざまな状況を考慮して最も適した方法を医師が選択します。インスリン療法が適応となる患者さんは、基本的に必ず必要な場合(絶対的適応)と、必ずではないが必要な場合(相対的適応)の2つに分けられます。

インスリン療法の絶対的適応
  1. インスリン依存状態
  2. 高血糖性の昏睡(糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態)
  3. 重症の肝障害、腎障害を合併しているとき
  4. 重症感染症、外傷、中等度以上の外科手術(全身麻酔施行例など)のとき
  5. 糖尿病合併妊婦(妊娠糖尿病で、食事療法だけでは良好な血糖管理が得られない場合も含む)
  6. 静脈栄養時の血糖管理
インスリン療法の相対的適応
  1. インスリン非依存状態の例でも、著明な高血糖(たとえば、空腹時血糖値250mg/dL以上、随時血糖値350mg/dL以上)を認める場合
  2. 経口薬療法のみでは良好な血糖管理が得られない場合
  3. やせ型で栄養状態が低下している場合
  4. ステロイド治療時に高血糖を認める場合
  5. 糖毒性を積極的に解除する場合

日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療ガイド2022-2023, 文光堂, 70-71, 2022

インスリン療法の考え方は、インスリン注射によって体の外からインスリンを補って、糖尿病がない人の血中インスリンの変動をできるだけ忠実に再現することです。
1型糖尿病では、病気がみつかった時期と状態・進行状況によって多少の差はありますが、インスリンの分泌が非常に低下しているか、または全くないので、現在では基礎分泌と食後の追加分泌をともに補う強化インスリン療法(Basal-Bolus法)が主として用いられています。インスリン療法の開始時には、原則として入院して治療を開始します。
2型糖尿病では、インスリン分泌能が保たれている場合は、基礎分泌、追加分泌のいずれかを補うことで血糖管理の改善がみられることもあります。一般に妊婦の方や妊娠を希望する場合や、清涼飲料水ケトーシスなどでは強化インスリン療法を用いますが、その他にも状態に応じてさまざまな投与方法があります。患者さんの年齢、血糖管理の目標値、インスリンの分泌能とさらに、インスリン療法への理解、ライフスタイルなどを総合的に加味して、最も適した投与方法が決定されます。

強化インスリン療法とは?

生理的なインスリン分泌能を忠実に再現するために、患者さん自身が、血糖自己測定(SMBG)を用いて自分の血糖値の動きを把握し、医師によりあらかじめ決められたインスリン投与量の範囲内で食事内容、運動量に応じてインスリン量を調整しながら血糖管理を図る治療法です。
インスリン療法が必要と判断された場合にまず選択される治療法ですが、自己注射と自己の血糖管理が必要ですので、治療への理解と低血糖になったときにきちんと対処できることが重要です。
強化インスリン療法を用いて徹底的に糖尿病がない人のインスリン分泌を再現することで、インスリンを分泌する働きの回復や、さらなる分泌する働きの低下を予防することができます。また、特に1型糖尿病では強化インスリン療法によって的確に血糖管理することで糖尿病合併症の発症や進展の予防にもなります。
強化インスリン療法には、インスリン頻回注射と持続皮下インスリン注入(CSII)療法があります。

インスリン頻回注射

強化インスリン療法では、インスリン頻回注射が原則として選択されます。
インスリン基礎分泌を中間型または持効型溶解インスリン製剤1日1~2回、インスリン追加分泌を超速効型または速効型インスリン製剤1日3回を組み合わせて、1日3~5回注射する方法です。原則として1日4回(4回法)が用いられ、並行して1日1~7回程度の血糖自己測定を行います。

※イメージ図

運動量が多い、または激しかった日などには低血糖症状がみられていなくても必ず就寝前に血糖測定すること、また、血糖値が変動しやすいのでライフスタイルにあわせて捕食の時間や回数を臨機応変に考慮することが大切です。

持続皮下インスリン注入療法
(Continuous Subcutaneous Insulin Infusion - CSII)

一般的に、インスリン頻回注射でも良好な血糖管理が得られず、より厳格な血糖管理が必要な場合、特に小児・思春期の1型糖尿病、妊婦などに考慮されます。
CSIIは、体の外に小型のポンプを取り付けて、腹部の皮下に留置した針・チューブから超速効型または速効型インスリンを持続的に注入して糖尿病がない人のインスリン分泌を模倣する投与方法です。ポンプ機器管理と取り扱いは患者さんが自分で行います。超速効型または速効型インスリンを電動で持続的に注入して(基礎分泌)、各食前には手動で追加注入(追加分泌)を行いますので、皮下に長くインスリンが留まることがなく、夜間の低血糖などのリスクが低いとされています。

※インスリン注射や投与量の調整、血糖管理は自分で行いますが、注射の基本操作や血糖自己測定による血糖管理は、医師の支援をきちんと受けた上でできるものです。投与回数や医師の設定を超える投与量の変更が必要なときなどは、特に自己判断で変更せず、必ず医師と相談の上でそのときにあった投与方法を行っていけるようにしましょう。

その他のインスリン療法

2型糖尿病など、インスリン分泌がある程度保たれている場合では、基礎分泌から治療するのか追加分泌から治療するかといった、決まった治療方針は現在のところありません。
また、頻回の注射が難しい、強化インスリン療法が使えないなどの場合もあるため、
たとえば、
1.混合型または中間型インスリン製剤のみ、
または
2.基礎分泌が保たれているようであれば追加分泌の不足分だけ補う(超速効型または速効型インスリン製剤の投与)、
あるいは
3.持効型溶解インスリンで基礎分泌を補い追加分泌にはSU薬を用いる(BOT:basal supported oral therapy)という経口血糖降下薬のみで血糖管理が不良な場合にインスリン基礎分泌をインスリン注射で補う方法など、基本的に患者さん個々の状態にあわせたさまざまな注射方法が用いられています。

※インスリン注射や投与量の調整、血糖管理は自分で行いますが、注射の基本操作や血糖自己測定による血糖管理は、医師の支援をきちんと受けた上でできるものです。投与回数や医師の設定を超える投与量の変更が必要なときなどは、自己判断で変更せず、必ず医師と相談の上でそのときにあった投与方法を行っていけるようにしましょう。

監修:順天堂大学 名誉教授 河盛 隆造 先生