経口血糖降下薬による治療

高齢者の糖尿病治療

高齢(65歳以上)の人の2型糖尿病は、青年または中年期以前に2型糖尿病が発症して糖尿病治療を続けてきた場合と、高齢になってから2型糖尿病を発症した場合の2つのパターンに大きくわかれます。そのため糖尿病自体の状態や糖尿病合併症の状態は様々です。さらに糖尿病以外の病気の有無も絡んできますので、個々にあったよりきめ細かな治療が必要となります。

治療にかかわる高齢者の2型糖尿病の特徴

長期にわたって治療を続けている高齢の方では、すでに糖尿病合併症をもっていたり、また、低血糖に気づかず(無自覚低血糖)に放置していたために認知症やうつ症状がみられることがあります。一方で、高齢になってから発症した方は、網膜症や腎症などの合併症はすぐには症状として現れませんが、だからといって高血糖のまま放置すると感染症にかかったときに重症化しやすかったり昏睡の危険が高くなったりします。
高齢患者さんでは、患者さんの認知機能や洋服の着替え、移動、入浴などの日常生活ができるかどうか、またのんでいる薬に合わせて目標値を決めて、治療を進めていきます。

治療のポイントは?

  • 自己管理が十分に可能な方は、通常の管理目標値を目指します。
    →患者さんの年齢と糖尿病の罹病期間、糖尿病合併症の有無や発症年月などを考慮して血糖管理の目標値が設定されます。加齢とともに体の機能は低下していくため、薬剤の効果がみられるのに時間がかかったり、体の外に排泄されるのに時間を要したりなど、通常とは薬の働き方が異なることがあります。そのため、新たに薬剤を用いる場合は規定の量より少ない量から開始して、患者さんとの相性をみながらベストの投与量を決定していきます。
  • 高齢者でも食事療法・運動療法が基本です。
    薬を飲んで調子がよくなっても、基本の食事療法・運動療法はきちんと行うことが大切です。
  • 薬物療法では特に低血糖やそのほかの副作用への注意が必要となります。
    →高齢者では低血糖の治療後にも低血糖になりやすいため、血糖値が上昇した後も注意が必要なことがあります。また、糖尿病以外の病気をもっていることが多いため、薬物療法を行う際には投与量や薬の選択に特に注意を要します。この場合は、糖尿病治療薬だけでなく、他の疾患の治療薬の影響(相互作用)も考えた処方をしますので、他科や他院で薬の処方を受けている場合は、必ず医師に伝えることが重要です。
  • 高齢者では、低血糖が起きた場合の症状が認知症に似ているために認知症と間違えら得ることがあります。
    逆に実際に認知症が発症していることもあり、認知症であれば血糖管理が悪化しやすくなりますので、正しい診断が必要となります。認知症が疑われる場合には薬剤を減量することで認知症かどうかを確認できます。
  • 医師の処方にしたがって、きちんと服薬スケジュールを守ることが大切です。
    →決められたとおりに服薬できないと、血糖管理が上手くいかなくなり、合併症の悪化・発症を早めてしまうことになります。今のライススタイルに合わないために服薬が乱れがちであれば、服薬がきちんと守れる方法を探す、家族の人に協力してもらうなど、遠慮せずに医師に相談して最良の方法を探しましょう。自分に合った方法であれば、気持ちも軽くなりより続けやすくなります。
  • 薬物治療を行う上で、低血糖はつきものと考えておきましょう。
    低血糖の対処方法を心得ておけば怖いものではありません。また、日常生活では風邪をひいた、おなかをこわしたなど体調の悪い日(シックデイ)があります。毎日の体調管理は糖尿病でなくとももちろん大切ですが、低血糖と同様にシックデイの対処方法がありますので、いざというときに対応できるように、家族と一緒に日ごろから心得ておくようにしましょう。

高齢者の薬物治療には何が使われている?

スルフォニルウレア薬(SU薬)

  • 血糖降下作用が強力で、内服も1日1〜2回食後でよいことで、内服の実施率を上げることができるため、簡便に用いられます。
  • 腎排出であり、長時間作用型であるため、遷延性低血糖のリスクが高まります。

ビグアナイド薬

  • 単独で使用するときには、低血糖をおこしにくいとされます。
    ただし、心不全、肝障害、および腎不全がある場合は使用が難しく、とくに腎不全例での乳酸アシドーシスの発症が問題となるため、超高齢者での使用は控えることも多いのが現状です。
  • 腹部膨満感など胃腸障害が出ることもあり、食直後内服が勧められます。
  • いわゆる「シックデイルール」の徹底も重要で、食欲低下時などは休薬することが副作用出現のリスクを回避するということを、患者だけでなく家族も巻き込んで確認しておくことが重要です。

αグルコシダーゼ阻害薬

  • 単独で使用するときには、低血糖をおこしにくいとされます。
    ただし、食直後服用であり、実施率の問題があります。
  • 肝機能障害、胃腸障害、とくに腸閉塞などが問題とされます。
  • 低血糖時に、糖類でもブドウ糖のみが有効であることが大切となります。

チアゾリジン誘導体

  • インスリン感受性を改善することで、加齢に伴うインスリン抵抗性に有用と考えられます。
  • 心不全、肝障害、および腎不全がある場合は使用が難しく、とくに女性で浮腫などの副作用がみられやすいことが問題点となります。
  • 高齢女性では骨折のリスクを増やすことも示唆されているので、注意する必要があります。

グリニド薬

  • SU薬と異なり、作用時間が短時間でインスリン分泌を促すことから、高齢者に多い食後高血糖の改善に利点があると考えられます。
  • 食直後内服であり、これが患者の実施率が問題となることもあります。

SGLT2阻害薬

  • 腎臓にある尿細管からブドウ糖の取り込みを抑え、尿中に糖を排出し血糖を下げる薬です。
  • 脱水や尿路感染症、低栄養やサルコペニアなど高齢者が注意が必要な副作用が懸念されるため、注意が必要です。

DPP-4阻害薬

  • 膵臓に働く良好な血糖低下効果を示しつつ低血糖を起こしにくいという特徴があります。
  • SU薬と併用すると重症低血糖を起こすことがあるので高齢者の方では注意が必要です。

GLP-1受容体作動薬

  • 膵臓のβ細胞にあるGLP-1受容体に結合して血糖値が高いときだけインスリンの分泌を促すため、単独の使用では低血糖が起こりにくいとされています。
  • 肥満、非肥満にかかわらず体重増加の可能性が低いとされています。
  • 胃腸障害が認められ、急性すい炎が起こる可能性もあります。また、SU薬と併用すると低血糖の起こる頻度が高くなるので、定期的な血糖測定を行うなど慎重な管理が必要です。

監修:順天堂大学 名誉教授 河盛 隆造 先生