経口血糖降下薬による治療

α‐グルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)

どんな働きをするの?

一般的に食事の約6割は炭水化物(糖質)をいわれていますが、糖質は小腸でα‐グルコシダーゼという酵素によってブドウ糖に分解されます(消化)。その後ブドウ糖は、血液中に送られインスリンの働きによって各組織でエネルギーとして利用されたり蓄えられたりします(吸収)。
糖尿病のない人では食後すぐに十分量のインスリンが分泌され、食後に増加する血液中のブドウ糖は速やかに処理されています。ところが糖尿病では、インスリンの分泌する働きが低下しているために、食後のインスリンの分泌が遅れてしまい、血液中のブドウ糖が速やかに処理できずに血糖が上昇してしまいます(食後高血糖)。
α‐グルコシダーゼ阻害薬は、α‐グルコシダーゼの働きを阻害することで糖質の分解を抑えて、消化・吸収を遅らせることで食後の血糖値の上昇をゆるやかにして、食後高血糖になりにくくします。α‐グルコシダーゼ阻害薬により食後血糖の上昇がゆるやかになると、インスリン分泌の上昇のタイミングが近くなるため、インスリンが効果的に作用できるようになるので食後高血糖が改善します。


どんな人に用いられる?

食事療法・運動療法ができているのに食後高血糖がみられる軽症の2型糖尿病で、空腹時血糖値がそれほど高くなく、インスリン非依存状態を示す場合に用います。中等症以上では併用薬として考慮されます。


この薬剤を使う際に気をつけること・知っておきたいこと

  1. α‐グルコシダーゼ阻害薬を使う際には、食事療法・運動療法がきちんとできていることが特に重要となります。
  2. 必ず食直前に服薬しましょう。食後では効果がありません。
  3. SU薬、インスリン抵抗性改善薬、ビグアナイド薬、インスリン療法を行っていても、著しい食後高血糖がみられる場合で併用すると効果が期待できます。
  4. インスリンの分泌を刺激する作用がないため、α-グルコシダーゼ阻害薬のみの服薬では低血糖の起こる危険は低くなっていますが、SU薬やインスリン療法の併用で低血糖が起こることがあるので注意が必要です。α‐グルコシダーゼ阻害薬を服薬していて低血糖が起こった場合、必ずブドウ糖を摂ってください。α‐グルコシダーゼ阻害薬の特性上、ショ糖ではブドウ糖への分解を抑えてしまいますので、低血糖はすぐによくなりません。
  5. 服薬初期に腹部の張りやおなら、下痢など、消化器の不快な症状が現れやすいので、自己判断で服薬を止めてしまうことがありますが、これは消化しきれていない炭水化物が腸内細菌によって分解されて有機酸が生成されることによるもので、服薬をきちんと続けることで改善・消失します。
  6. 高齢の方や消化管の手術をしたことのある方は、腸閉塞などの重篤な副作用がみられることがあるので注意が必要です。また、肝機能障害を起こすことがあるので、定期的な肝機能検査は必ず受けるようにしましょう。

血糖管理が上手くいかないとき

  • 食事療法・運動療法がきちんとできていますか?   
    →摂取カロリーが過剰になっていませんか? 総摂取カロリーに占める炭水化物の量が少なくなっていませんか? 再度、自分のライフスタイルを振り返ってみましょう。食事療法を徹底する必要があります。
  • きちんと指示通りに薬を服薬していますか?  
    →飲み忘れや、食直前に服薬していないことはありませんでしたか? もし、生活の変化などによって、服薬のタイミングがうまく合わせられなくなってきたら、ライフスタイルにあった服薬方法に変更したり、他の薬剤への変更も考慮されますので医師に相談するようにしましょう。
  • ストレスにさらされている場合にも、血糖管理がうまくいかないことがあります。
  • 糖尿病以外の病気が発症または悪化している場合が考えられますので、定期的なチェックを受けるようにしましょう。

監修:順天堂大学 名誉教授 河盛 隆造 先生