インスリン療法へ不安をお持ちの方へ

妊娠とインスリン療法

妊娠に関連した糖尿病は、発症の時期や状態によって妊娠糖尿病と糖尿病合併妊娠の2つに大きく分けられており、妊娠の際には、誰しも糖尿病あるいは糖代謝異常がないかチェックが行われています。

妊娠糖尿病と糖尿病合併妊娠とは?

妊娠糖尿病

これには、診断基準があります。

診断基準

日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療ガイド2022-2023, 文光堂, 105, 2022

いわゆる糖尿病とまでは診断されないが糖代謝の異常が妊娠中に起こります。現在のところ、妊娠糖尿病は、肥満である、急に体重が増えた、家族に糖尿病の人がいる、過去に巨大児を出産した経験がある、高齢である場合などで発症する危険性が高まります。
妊娠糖尿病では、出産後一時的に糖代謝の異常が改善しても、糖尿病に発展することがありますので、出産後の長期的なフォローが重要になります。

糖尿病合併妊娠

糖尿病が妊娠前から存在している場合のことをいいます。
糖尿病合併妊娠で最も重要なのは計画妊娠です。糖尿病合併妊娠はお腹の子どもに先天性の異常が起こる危険性が高いとされ、また、母体の糖尿病合併症が悪化する可能性があります。計画妊娠は、この危険をなくすために妊娠する前から徹底した糖尿病治療と血糖管理を行って糖尿病をベストの状態に保ちつつ妊娠に望む方法です。産後の状態、糖尿病合併症の予防にもなりますので、できれば子どもが欲しいときには、パートナーと相談し協力を得て臨めると妊娠前の準備がしやすくなります。
また、妊娠中は網膜症や腎症などの糖尿病合併症が発症・進展しやすくなりますので、妊娠前にこれら糖尿病合併症の評価・治療を行っておく必要があります。
ちなみに、出産後に糖代謝異常が改善しても、その後母体が糖尿病になる危険性が高くなります。でも、これらは妊娠に際して糖尿病や糖代謝異常の処置を何もせずに放置した場合です。あらかじめ注意して妊娠前、妊娠中、出産後と、きちんとした対応をすれば心配はありません。糖尿病だからといって子どもを産めない、育てられないということは全くありません。

宮崎久義、豊永哲至 編:わかりやすい糖尿病テキスト 第5版 じほう ,88-91,2018


できること。気をつけること、知っておきたいこと

  1. 2型糖尿病で経口血糖降下薬を使用していたり、インスリンと経口血糖降下薬の併用による治療を行っている場合も、妊娠前、妊娠中、周産期、授乳期の糖尿病の薬物治療はインスリンによる治療となります。インスリンは胎盤を通過しませんが、経口血糖降下薬は胎盤を通過してお腹の子どもに薬の成分が移行してしまう可能性があるためです。授乳中に関しても、母乳中に移行する可能性があるため同様にインスリン注射が基本となります。
  2. 糖尿病の方の妊娠中で一番大切なのは、血糖値の完全な正常化です。
    血糖自己測定を行うことで、インスリンの調整を行い、よりよい血糖管理を実現することができます。
  3. 食事療法は摂取する糖質分の不足によるケトーシスの予防や厳格な血糖管理の維持に重要になりますので、医師の指示に従って栄養補給、体重管理に努めるようにしましょう。
  4. 妊娠中は網膜症などの糖尿病合併症が発症・進展しやすくなります。妊娠前には、これら糖尿病合併症の評価・治療を行っておきましょう。
  5. 妊娠が進むとインスリン抵抗性が増大したり、お腹の子どもによる糖の消費率が高まるなどして、インスリンの過不足をきたしやすくなることがあります。その場合には、CSIIを導入して、厳格な血糖管理維持を図ります。

難波 光義、杉山 隆 編・著 : 「妊娠と糖尿病」母児管理のエッセンス, 金芳堂 ,154,159,164-168,179,182-183,196, 2014

監修:順天堂大学 名誉教授 河盛 隆造 先生